井上洋司さん~ぶどう畑で会いましょう~(井上ぶどう園当主・ランドスケープアーキテクト)

ページ番号1026133  更新日 2026年3月23日

写真:井上洋司さん1

300年以上続く農家の15代目に当たる井上ぶどう園の当主、井上洋司さん。都市景観や公園などの外部空間を設計するランドスケープアーキテクトでもあります。

忘れられない光景

ランドスケープアーキテクトに至る原点は、病弱だった少年時代までさかのぼります。小学校の下校途中に息切れをして一休みをする、一本のサルスベリの木。そこに腰かけて、多摩川とその前に広がる水田の美しい風景をいつも眺めていました。しかし東京オリンピック開催の数年前にバイパスが建設され、ブルドーザーでその景色が壊されていく様子に大きな衝撃を受け、心にずっと残っていたそうです。

変わりゆく景色に対してもうちょっとうまくできなかったのかという想いから、景観を造ることに興味を持つようになった井上さん。ランドスケープ設計の道に進みました。これまで長野オリンピックの選手村や成田山新勝寺の参道、中国四川省のニュータウンなど数多くの空間設計を手掛け、国内外で長年活躍されてきました。

写真:井上洋司さん2

ぶどう棚の下に現れる素敵なアート空間

井上さんは30年前に農家を継いだ際、都市の日陰と日照条件が似ているぶどう棚の下を実験農場とし、本業のランドスケープ設計で使う植栽を育て始めました。さらに棚の高さを一般的なぶどう棚より15~20cmほど高くし、人が集いやすい場所に。その広くなった棚下の空間を活用し2007年からスタートしたのが、『ART in FARM』です。ぶどう畑でのアート体験を通じ、都市農地の多様な可能性を感じてもらうイベントです。

18年目となる2025年も、2日間で400人以上の方が訪れました。参加者はぶどうの下、農園で作られたワインを片手に音楽ライブやアートのワークショップを楽しみ、和やかで贅沢な時間を過ごしました。

「以前夜も開催していた時には、暗闇の中にあかりが灯されて、エンマコオロギの虫の音と合唱がハモるんです。そうすると幻想的な風景が生まれるんですよ」と井上さんは振り返ります。

写真:ぶどう
ART in FARM2025の様子

農地を公共的に残すには

「今、都内では毎年、相続税やその他の理由で約90ヘクタールの農地が消滅しています。それが住宅地になっているんです。相続税が掛かるから手放さざるを得ない事情もあるんですけど、周りの人がその土地のよさを知らないということも一因としてある気がします。周囲の人があそこで面白いことやっているから、あの農地を残したいって思ってもらえるような気運をつくっていきたいんです。こんなによい場所なのにどうして辞めちゃうの、とか。だったら今度何かやる時は私達も手伝うよ、みたいなね。周りがそういう気持ちになってくれば、農地って減らないんじゃないかなと思った訳です。そのためには、土地をオープンにして周囲の人に楽しんでもらう場所にしたらどうかと。地域の人に都市の農地が持つ多様な価値を知ってもらうための取り組みが、ART in FARMなんです。そのゴールとしては、みんなで農地を維持できるような仕組み作りができるとよいですね」と井上さん。

写真:アートインファームの様子
ART in FARM2025の様子

思い描く立川の未来予想図

「立川は典型的なスモールシティ※1。中心に繁華街がぎゅっと集まり、外周には昭和記念公園や玉川上水、東京都農林総合研究センターなどの大きな緑地があり、農家さんも残っている。なおかつ交通網の結節点もある。全国でも珍しい都市構成をしています」と井上さんは立川市の魅力を語ります。

さらに立川でこれからやってみたいことを伺うと、「昭和記念公園の南側から北側まで、まっすぐに伸びる道路(立川昭島線)がありますが、その真ん中の緑道の活用方法として、ファーレ立川アート※2のようなパブリックアートの展示をしたらいいのではないかと思っています。例えば毎年世界中から作品を募って、審査して選ばれたものをアート作品として設置していく。毎年増えていけば、いずれ世界中の人が鑑賞しにくるような観光資源になるのではないか、というようなことを考えています」と話します。

あふれる好奇心と探求心、実行力で、これまでもご自身の想いを形にしてきた井上さん。今後のますますの活躍が楽しみです。

※1 都市機能(居住、商業、医療、公共施設)を一定範囲に集約し、車に頼らずに公共交通機関や徒歩での移動を基本とする持続可能な都市構造のこと。
※2 JR立川駅北口エリアに36か国92人の作者によって展示されている109のアート作品。

写真:ぶどう2
ART in FARM2025の様子
井上洋司(いのうえ ようじ):ランドスケープアーキテクト
背景計画研究所代表。一級建築士。成田市景観アドバイザー等
主な仕事:成田山表参道整備事業 (‘90年〜)、長野市今井ニュ—タウン(冬季長野オリンピック選手村)/谷津遊路・千葉県街並み景観賞知事賞/ガーデンアベニュー志木幸町・彩の国さいたま景観奨励賞。 主な著書:『雨の建築術』(日本建築学会編・主査・共著)、デザインサーヴェイ図集(オーム社・共著)『ローメンテナンスでつくる緑の空間』・(彰国社) 他多数